2021.12.07
ライフハック
どうやら、小さな頃に夢みた自由は、自然や弱者から搾取し続ける巨大なマーケットからの誘惑に過ぎないと知ってしまった僕は、完全に道に迷ってしまった。。
同世代の仲間たちの多くは都会に自由を求め帰っては来なかったし、僕自身、知らないふりをして甘美で妖艶な摩天楼へと飛び込んでしまおうかと思ったこともあった。それも一度や二度じゃなく数え切れないほどに。
「誘惑を断ち切らなければいけない。」そう考えた僕は頭を丸めて出家することも考えたのだが、そこまで強い信念も持ち合わせていなかったし煩悩もたんまりある。怠惰で臆病でちっぽけな自分は、巨大なマーケットに背を向けることしかできなかった。
こうなったら都会を離れ、出来るだけ田舎に行こう、そこで悠悠自適なスローライフを送ろう。きっと自由も手に入るはず!そう、自分に言い聞かせながらも頭の中では、社会的セーフティネットなしで生きることへの不安を捨て去ることもできず、困窮生活に陥るんじゃないか、変な病気になるんじゃないか、ホームレスになるんじゃないか、という恐怖が僕の足に重く絡みついた。
事実、15年前は同世代の仲間たちで、長野の片田舎からさらに田舎へ行こうなんていう人はいなかったし、今のように、「エコビレッジ」「スローライフ」「田舎暮らし」と入力し、インターネットで検索して生き方を探すこともできなかった。ただそんな時、道しるべになったのが時代の先駆者、パイオニアと呼ばれる人たちのオーセンティックな生き方を実践している人たちでした。
商業文明から距離を置く彼らの生き方は、シンプルで美しく理想の生き方のように輝いてみえました。僕は彼らの暮らしに入り込み自分の道を探し出すことにしたのです。海や川、山から食糧を得て暮らす仙人のような人生、テレビやパソコンと言った小さな娯楽と呼べるような物とも縁を切り、電気も使わず暮らす生き方。
あまりのストイックさについて来れる人もなく、まさに孤高と呼ぶに相応しいような人もいました。インドでは靴も履かず、ほとんど裸で生きるような人もいましたが、これなら出家する方が楽なんじゃないかとさえ思うことも。最初は憧れに似た感情も、あまりのストイックさに怖気づき、僕が手に入れたいのは仙人のような隠遁生活ではなく、もう少しユルい暮らしなんだと感じるようになりました。人生の酸いも甘いも知ってからならまだしも、少なくとも二十代前半で選択するには早過ぎたのです。
そこで、もう少しハードルを下げることにしました。一時期は都会で暮らしたのち、その生活から足を洗う決断をした人たちや、僕と同じように巨大なマーケットの歯車になることを拒否しつつ、かと言って孤高な仙人になりたい訳ではない、ゆるやかなシンプルライフを選択した人たち。月五千円から二万くらいの古民家を借りるか、ボロボロの古民家をタダ同然で譲り受け、食べ物を自力で栽培し、薪で調理し暖をとる彼らは、なるべくガスや電気を使わず、住宅ローンや高い家賃から解放されることで、生活にかかるコストを圧倒的に下げる生き方を選択していました。
社会との最低限な繋がりを確保するべく、スマホを持つ人もいますが月の通信費は三千円ほど。会社に勤めている訳ではないので社会保険(健康保険と厚生年金)には、入っていません。と、なれば国民健康保険に入るのが当たり前ですが、驚くほど入らない人が多かった。保険に入っていなければ病気や怪我をして病院に行く場合、全額自己負担になるので、一般人からしたら理解し難いと思いますが、彼らには国民健康保険に入らない二つの理由があります。一つは、単純に経済的な理由で払いたくても払えないという理由、そしてもう一つは、病気や怪我をしても大概は自分で治せると考えていること。
実際、何十年も病院にかかっていない人が沢山いました。自然に近い環境で暮らしているから病気にかからないのかというと、意外とそうでもなく、都会に暮らす人と同じように風邪もひいていました。ただ、彼らは企業に勤めているわけでもなく、経済中心の生活からほぼドロップアウトしているので、風邪薬を飲んだり、高熱を無理やり解熱剤で抑えて仕事に行く必要がないのです。
そして何より病気をマイナス的な観点では捉えていないことも特筆すべき点でした。彼らはシンプルライフを営む中で外的要因に意識を向ける時間が減ったおかげか、自分の身体の変化や不調をもとに心や精神など内的要因に意識を向ける時間が圧倒的に多いわけです。なので、風邪や高熱などに見舞われたときは、身体や精神の疲れの表れかライフスタイルの不均等を解消し、バランスを取り戻すためのポジティブな現象だと考えているのです。
彼らからすれば、病気になるにはそれなりの理由があり、咳も高熱も自己免疫機能の正常な働きであって、薬によって抑えられるべきではないのだそうです。薬を使うことは一時しのぎに過ぎず、行き場を失った症状は、ガンや免疫機能の低下など別の病を誘発する恐れがある、と。だから彼らは白湯や梅醤番茶などの自然療法を生活に取り入れ、よほどのことがない限り市販の薬は使わないし、医者にもかからないわけです。そうして、彼らは高い免疫機能と健康的な暮らしという自由を一人当たり月5万円ほどで手に入れていたのだ。
▶︎こちらのシリーズは、サイハテ村のコミュニティマネーシャー坂井勇貴が綴るSAIHATEのアナザーストーリーからの転載となります。続きが気になる方はnoteで公開しているのでご覧ください。『小さな村が世界を変える』